もうすぐ海外に旅立つ先輩と、
メイド喫茶に行ってきた。
行くのは初めてだった。
これぞメイド喫茶!という雰囲気にびびりつつも入店。
席に案内されて、メイドさんがメニューをもってくる。
そして、表題の気になるひとこと。
「本日は初めてのご帰宅ですか?
よろしければメニューの説明をいたしましょうか?」
と言われた。
初めての、帰宅?
繋がるはずのない二つの言葉が、
アクロバッティブに接続されている。
家というものは、
使い続けることで家になる。
使い続けるうちに、自分が本来いるべき場所になってゆく。
愛着が、家を家たらしめるのだ。
初めて行く、愛着も何もない場所に、
「帰宅」することはできない。
それは「訪問」であって「帰宅」ではない。
「初めて」と「帰宅」は、本質的に相容れない。
しかし、
ここのメイド喫茶は、
その二つを敢えてくっつける。
きっと言葉の裏側には、想像を絶するようなドラマがあるのだろう。
ちょっと想像してみてほしい。
23歳になる男が、今日初めて帰宅したのだ。
23年前、彼は、聡明な母親と優しい父の元に生を受けた。
しかし、なんという運命の悪戯か、
約束されたはずの幸せな家庭は奪われる。
彼はまだ0歳。
世界の残酷さを知るには幼すぎる歳にして、彼は帰るべき場所を失った。
以来、彼にとって「家」はまだ見ぬ場所であり続けてきた。
それから23年間、
ひとと同じように笑い、泣き、人生を歩んできたが、
どこか物足りない。
人として何か根本的なものが欠落しているような感覚がつきまとう。
それが何なのか、彼は考える。
雨の日も、風の日も、考え続けた。
そうだ、家だ。
そう気付くのに時間はかからなかった。
彼は両親に似て聡明だった。
彼は「家」を探し始めた。
いつか帰宅する場所を、
自分が自分でいられる場所を。
そして彼は今日、ついに見つけた。
初めて自分が戻るべき場所を認識したのだ。
思い返せば長かった。
落ち着くこともできないまま歩んできた23年間。
そんなかりそめの人生が、今日終わった。
今日、ここから彼は、
ほんとうの人生を歩んでいくのだ。
そっか、もう俺には帰る場所があるのか、
とつぶやく彼の目が涙で潤んでいる。
そう、彼はいま、
初めて帰宅したのだ。
みたいなシュールな妄想をしつつ、店を出る。
いや、家を出るというか、
家出するというか。
戻らない旅に出よう。
世界はこんなにも広い。
2 件のコメント:
思わず反応してしまったw
お屋敷設定としては、
広大な敷地の中に普段住んでいる本邸があり、
メイド喫茶や執事喫茶は同じ敷地内にあるけど、
別の建物の「ティーサロン」という位置づけなのだそうです。
庭でつながってるけど、別居状態のおじいちゃん家みたいな?
マニアック!笑
別居状態のおじいちゃん。。
それもそれでなんか切ない。
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