2009年10月28日水曜日

青年団「東京ノート」

国立国際美術館で青年団の演劇、「東京ノート」を観てきた。

美術館が舞台の演劇を、
ほんとに美術館を舞台にやるという、
不思議な空間だった。
どこまでが演劇で、
どこまでが観客なのかわからなくなる。


平田オリザの演劇を観てるといつも、
うまい、と思う。
まあ「いつも」というほど観たことないけど。
それは、設定の臭わせ方であったり、
演技の細やかさであったり、
微細な感情の描き方であったり。


演劇は、旅行によく似ていると思う。

旅行をするとき、
乱暴に言えば人間は二つのタイプに分けられる。

ひとつは、「違い」を見るタイプ。
「すごい! 都会ではこんな自然ないよね!」
「日本じゃありえない!」
みたいな絶叫を繰り返す。

もうひとつは、 「同じさ」を見るタイプ。
「あ、これ○○と似てる」
「これっていわゆる○○だよね」
みたいな分析をつぶやく。



世界は、よく似ていて、ぜんぜん違っている。
そんな、当たり前のこと。

違いの中に共通点を見つけられる。
同じ中に相違点を見つけられる。

そういう構造はたぶんあらゆるものにあって、
たぶん演劇でもそうで、

例えば、松尾スズキは「違い」を強調する。
普通にはない境遇の主人公が、
普通にはない世界を生き抜いていく。
偏見とか差別とか、日常には表に出てこない「違い」でどぎつく塗り固められた中に、
なぜか不思議な「同じさ」を感じてしまう。


一方で、平田オリザは「同じさ」が際立つ。
日常とあまり変わらないような、どこかで見た光景の中に、
ちっちゃく揺れ動く人間の心が丁寧に描かれる。
小さな喜びとか悩みとか、
ぎこちなさとか隠してしまうこととか。
日常と「同じ」空気の中に、
新鮮な「違い」に気付かされる。


演劇の世界の中を旅行しに、
俺たちは劇場に行くのだ。

違うとか同じとか。
その世界がどう見えるのだろう。


ところで東京ノートの最後のほうに、こんな場面がある。

ちょっと空気が読めない中年女性が、また突然、脈絡もなくサンテグジュペリの「星の王子様」の話をし始める。星の王子さまの中に、肝心なこと目には見えない。心で見なさい、みたいな台詞がある。それに対してその女性は、
でもさ、心でなんか見えないよね。 心でなんて、どうやって見るのっ!?
と、少しおどけた調子で言う。ちょっと笑う。
あんまり面白くないツッコミだ。
相手も、どこがおもしろいのか分からないけどまあ合わせとこうか、みたいな感じで、笑う。

二人で笑って、
少し間があって、
中年女性は一言付け加える。

心、みんな違うでしょう。


この一言が、なんかとても衝撃的だった。
何を言わんとしているのかよくわからないけど、
なんとなく感動した。
うまい。

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